震災における部品調達の意外な落とし穴

Yahooにこんな記事が出ていた。

自動車生産回復の足を引っ張る 部品調達先「集中」の意外な実態(Yahooトピックス)

自動車部品がピラミッド型の生産体系であることは、業界人は知っていても一般人はそもそも知らないんじゃないの?
最終生産者・・・すなわち、今回の場合は自動車メーカーになるわけですが、そこに供給する部品メーカーを『tear1』といいます。
つまり第1次部品供給者ということです。
そして第1次部品供給者に部品を供給するメーカーが第2次部品供給者・・・つまりtear2になります。
以降tear3、tear4と続いていくわけです。

リスク対応にも余念がなく、どの自動車メーカーも同じ部品を複数の部品メーカーから調達し、リスク分散を図ってきていた。

これはない。
数十年前ならありえたかもしれんが。
今の日本の企業はほとんどが1社供給体制で、その概念は自動車メーカーだろうと一緒だと思います。
自動車は1000以上ものパーツで構成されていますから、構成点数分を納めるTear1が存在します。
そのためにピラミッド形になるだけで記事の抜粋に書いてあるようなことは、めったにないでしょう。
そもそも自動車部品ってtear1に近づくほど、どこのメーカーでも作れる代物じゃないです。
逆にtear3以下あたりまでくると、ほぼ素材に関するメーカーが登場してきます。
分かりやすく書くと、

自動車メーカー
  ↑
構成部品(tear1)
  ↑
構成要素(tear2)
  ↑
材料メーカー(tear3)

こんな形。
tear1の部品レベルになると、その部品固有の性能が発生します。
たとえば、ラーメン屋が出すラーメンの味がちょっといつもと違ったらどうでしょう。
実はラーメン屋が、面の仕入れ先を別の製麺屋に変更したため食感がかわったとしたら。
ラーメン屋ってこだわりがありますので、製麺仕入れをを変えない人が多いと聞きます。
ここではラーメン屋が最終生産者で、製麺業がtear1に当たります。
車でも同様で、tear1が作った品物が性能が変わると、自動車全体の性能が変わります。
これがもしブレーキやエンジン関係の部品だったらどうでしょうか?
下手すると死亡事故に直結する大事故です。
ですので、簡単に変えることはできません。
となるとtear1も、簡単に調達先を変えられません。
そうなると、今度はtear2に話が移ります。
先ほどの製麺だと今度は小麦などの材料を購入します。
今度は材料ですので、どこの小麦でもいいのかもしれませんが、そうじゃない場合もあります。


たとえば吉野家
件の牛肉騒ぎのときは一番牛丼再開が遅かったですが、これの一番の要因は材料でした。
吉野家の牛肉はアメリカ産でしたが、これ以外の産地の牛肉では吉野家の味が出せなかったため。
おそらく吉野家では試験的に他国の肉で牛丼を作ったと思うのですが、駄目だったのでしょうね。
結局アメリカ産牛肉の安定供給が元に戻るまでは牛丼の販売ができませんでした。


材料を変える云々では、自動車部品でも関係します。
たとえば鉄一つとってみても、メーカーごとに特徴があるんですね。
一応JISで決められた通りに作り、JISで決められた規格はクリアしていますが、JISは材料固有の独特な性能までは規定してません。
特に鉄の場合、磁性体であり導体です。
その組成構造の微妙なばらつきで磁化作用と電気導通特性が変わります。
ですから自動車業界の材料変更は、必ず一つ上(つまりは納品先)に許可をもらう必要があります。
ちなみに、最終生産者の場合はお上*1の許可になります。
ですのでtear2より下の領域で変更があっても、tea1で同じ物が作れて最終生産者に収めることができれば、最終生産者はなにも知らず存ぜずということです。

・最終生産者に近いところほど変更が容易じゃない
・素材の変更はその一つ上までしかしらない

tear3、4レベルで材料変更があっても、せいぜいtear2どまりでtaea1、ましてや最終生産者にはつたわりません。


もう一つはバブル崩壊後の日本の骨格経済ががらっと変わっています。
このtear3、tear4あたりになると、薄利多売業者や零細企業がほとんどです。
こういった企業が生き残るには、徹底的なコスト削減と効率化しかありません。
なので、材料レベルは同じ系統のものであれば、安く安定したところに変更するところが増えます。
そうなると、意外にも2〜3社に集中するんですね。
あとは上の納品先がOKをだせばいいわけですから。


こうして自動車メーカーが知らないうちに、ピラミッド形⇒たる型産業構造ができたのかということでしょう。

しかし、その代償として想定外の調達先集中リスクを抱え込むこととなってしまったのだ。大震災は自動車メーカーに難問を突きつけている。

無理無理、日本が変わらない限り、これは永久にかわらないと思いますよ。
そして自動車メーカーが頭を悩ます問題でもないし、頭を悩ませても無理無理。
だって先に書いたような構造だから、TOPがいくら考えても、行動しても変わりません。
この構造自動車に限ったことではなくて、特に最終生産物が五感にたよる食品業界とかのほうが深刻だと思いますけどね。