勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。 (富士見ファンタジア文庫)

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。 (富士見ファンタジア文庫)

第23回ファンタジア大賞の金賞受賞作。


勇者予備校で優秀な成績を収めていた主人公が、勇者になる直前で魔王が倒され勇者制度そのものがなくなり、夢破れた後。
結局魔法道具販売店で、一応正社員として働くというお話。
最近多いな、この手のネタなのか、著者実体験ベース??!!の世間労働話。
別にそれでも面白ければいいとは思う。


さて、この作品ダテに金賞はとっていない。
それこそ、数多あるラノベの新人の中でもうひとつ二つ光らないといけないのだが、この作品はもうひとひねりある。
それは主人公が勤める店にバイトとして入ってくる美少女。
この美少女、なんと倒された魔王の娘だった。
夢破れて勇者になれなかった勇者候補生と、人間に敗れて魔王の娘という肩書きが意味なくなった二人がひとつの店で仲間として働くのである。
まずここで少しだけポイントを稼いだのではないだろうか。
しかし、それだけではまだ足りない。
そこから先は著者の実力だと思う。


読んだ感じでは、描写が丁寧。
やたらレジうちにこだわるところがあったが、基本丁寧な文章つくり。
そして無駄に登場人物を増やさないところで、主人公とヒロインの魔王の娘にスポットを当てた。
それが功を奏したと思う。
二人以外の主力登場人物はそこそこで済ませて、二人に焦点が合うので余計な贅肉ともいえる部分がそぎ落とされてすっきりな物語になったのではないか。


ただ、起伏の激しさは少ない。
盛り上がるといえなくもないが、かといって極度に「なにこれ?」というのもない。
良質な佳作とでも言っておきましょう。