マニア以外向け。鉄道を有効利用しましょう。その2『特定都市区内制度の話』

むかし、知人にこういう質問を受けたことがあります。


『東京都区内⇒大阪市内ってどういう意味?』


知人が大阪の杉本町と言うところに出張に行くのに、新幹線の切符を買ったら、上記のようなことが書かれた切符を渡されたとのこと。
皆さんも、たまに鉄道利用する際に、こういうことが書いてある切符を目にしたことはありませんか?


この東京都区内とか大阪市内とか書かれている場合は、日記のタイトルにもなっている『特定都市区内制度』という項目に関係します。



この制度、こういう規定の元に制度化されています。

特定都区市内にある駅と、当該特定都区市内の中心駅から片道の営業キロが200kmを超える駅との相互間の鉄道の片道普通旅客運賃は、当該中心駅を起点または終点とした営業キロまたは運賃計算キロによって計算する。

はい、またまた意味不明ですね。
と言うことで、簡単に書くと

ある特定区域内の駅から出発する場合、その中心駅から目的地までが200kmを超える場合は特定市内制度を採用する。
その計算は特定都市の中心駅からの距離とする。

まぁ、これでも分かりにくいのですが・・・。


知人は渋谷からJRに乗って、東京に出て新幹線で杉本町に向かう予定*1
渋谷駅は東京23区内の駅。
そして大阪駅は東京駅から200kmを越えているので、東京23区内をまとめてひとつの駅として扱うことにしています。
そのため『東京都区内』という表示になったのです。
本来なら、渋谷から東京を経由して大阪までの距離を計算するはずなのですが、この市内制度のおかげで運賃計算上の距離は東京駅-大阪駅の計算距離となり、渋谷-東京分の距離が含まれないことになります。
それでも、23区内をひとつの駅としているので、渋谷から乗ってもOKなのです。
極端に書くと、渋谷だけではなく23区内どこの駅から乗っても、東京までの距離分は加わらず東京-大阪の分だけの距離運賃で乗れる制度なのです。
また、降りる駅の杉本町駅大阪市内の駅であるため、大阪市内駅の制度内に収まります。
つまり、知人は渋谷-東京分の距離増加分を免除され、さらに大阪駅-杉本町駅も免除されたことになるのです。
そのことを、実際にそのことを知人に説明しました。
知人も得したことに納得し『へぇ、そんな制度があるのか。これは良いことを知った』と笑顔満面。
ちなみに、特定市内制度があった場合となかった場合を仮定して、東京-大阪を計算してみる。
まずは、市内制度がなかった場合の計算方法。
下記の図を参考にしてください。

この図のように、渋谷⇒杉本町は総距離588.3kmとなるので、JR本州3社の幹線運賃表『581〜600km』にあたり、運賃は9,030円となる。
ところがJRには特定都市区内制度がある。
これに当てはめると、杉本町は大阪市内の駅で渋谷は東京23区内の駅。
また東京-大阪は200kmを越えるので、両方の駅がそれぞれの特定市内の中心駅である、東京駅と大阪駅の間だけの距離で計算することになる。
そうなると、下記の図のようになる。

見てのとおり、渋谷-東京と大阪-杉本町の距離分31.9km分が免除され、計算距離は556.4kmとなる。
これは本州3社幹線運賃表『541〜560km』になるので8,510円となる。
つまり520円安くなったわけです。
これが特定都市区内制度における恩恵です。
なお、この制度は自動的にそうなるので、JR側から渡される切符がすでにそういう記載になっていますので、特にこちらからいう必要はありません。


ここで『お〜〜いい制度だ』と思ったあたな、安心してはいけません。
この制度、非常に大きな落とし穴があります。
この制度はやりようによってはマイナス面が発生する場合もある諸刃の剣なのです。
実際に下記の例を挙げてみます。
東京の赤羽駅から福島県の福島駅まで行く場合の計算です。
このようなルートを利用します。

赤羽⇒大宮⇒福島


このルート赤羽-福島は259.6kmで4,310円の運賃。
しかし、ここでこの特定市内制度が厄介ごとを持ち込みます。
それは赤羽駅が東京都区内の駅であり、200kmを越えている福島駅まで行くために、赤羽駅からスタートしても運賃計算上は東京都区内の特定市内制度に組み入れられてしまいます。
そのため、下記のような計算が実施されることになります。

そうです。
乗らないはずの東京-赤羽13.2kmが運賃計算に加算され、東京-福島272.8kmになってしまい、運賃は4,310円⇒4,620円に跳ね上がってしまいます。
こんな理不尽なことが実際にあるのです。
今まで気がついていなかった人は、きっとショックでしょうね。
これは規則なのでどうしようもないですが、この市内制度を逆手に取りこんな買い方をすることが出来ます。

赤羽のひとつ先の川口駅から切符を購入します。
川口駅は東京都区内の駅ではないため、乗車券は川口-福島で4,310円になります。
そして足りない赤羽-川口の普通の切符130円を買って、そのまま赤羽から福島に向かうのです。
もちろん違反ではないので問題ありません。
そうすると、川口-福島の4,310円と赤羽-川口の130円の合計が4,440円となり、東京-福島の4,620円よりも200円安くなります。
これが、特定市内制度を利用した裏技で、特定市内制度の範囲ギリギリでの区切りが産む珍現象となります。
このような使い方は、赤羽と川口のように市内範囲駅のギリギリの線で区切ったりすると上手く使える作戦です。
市内制度を十二分に発揮した上手な使い方
以前雑誌に載っていた、上手な市内制度の使い方を紹介します。
主として市内制度から外れたそばの駅に向かう時に有効な方法です。
大阪市内制度を絡めて、東京から阪和線堺市駅まで行く
堺市駅阪和線の駅で大阪市内の駅ではありません。
ですので、実際に東京-堺市で切符を買うとこうなります。

ところが、乗車券を東京都区内⇒大阪市内にして堺市駅で精算するとこうなります。

堺市で払う精算金額は、堺市駅から一番近い大阪市内の駅までと言う決まりがあるため、請求されるのは堺市駅から一番近い大阪市内駅『杉本町』となります。
堺市-杉本町は1.9kmで120円です。
つまり合計が『8,510円+120円=8,630円』となり、東京⇒堺市まで買った8,720円よりも90円安く済みます。


ではもう一例を
今度は仙台市内制度を使った一例です。
仙台市内制度を絡めて、水戸から山形駅まで行く
コースは常磐線仙山線ということにします。
普通に乗車券を買うとこうなります。

しかし、この乗車券を水戸⇒仙台市内にするとどうなるか

仙山線の奥新川までが仙台市内になります。
実際には奥新川で降りずに、そのまま山形まで行って山形駅で精算しますが、請求されるのは山形駅から一番近い仙台市内の駅になります。
そうなると山形-奥新川の運賃480円が請求され、水戸⇒仙台の乗車券4,310円と合計して4,890円となります。
水戸⇒山形が5,250円でしたので、360円安くなりました。
これも仙台市内の仙台-奥新川が免除されたことによるものです。


こんな使い方もあります。
・関西からねずみの国まで

普通に買うとこうなりますが、これを大阪市内⇒東京都区内にすると

こうなります。
舞浜到着時に舞浜駅で、東京都区内に最も近い駅までの不足分の運賃を払います。
この場合は『舞浜-葛西臨海公園』の130円となります。
ということで、合計8,640円で舞浜まで一挙に買うより、80円安くなります。
杜の都から古都へ

仙台から鎌倉に行く時ですが、通しで買うと6,620円。
しかし、これを『仙台市内⇒横浜市内』で買うと

横浜市内最後の駅は戸塚ですので、戸塚-鎌倉の分210円を払います。
そうすると、仙台⇒横浜が6,300円なので合計6,510円になり、110円安くなります。
しかし、実際に鎌倉駅で請求されるのは鎌倉駅から最も近い横浜市内の駅になります。
その駅は根岸線本郷台駅になります。
これはたとえ根岸線回りで鎌倉に来なくても、そういう風に計算されます。
鎌倉-本郷台は160円なので、仙台-横浜6,300円との合計は6,460円。
仙台-鎌倉よりも160円安くなります。


このように、上手に使うと細かいところで安く設定が可能な特定市内制度。
200kmを越える区間を利用する際には、考えてみるのも良いかもしれません。
なお、この市内制度は下記の都市のJRの駅に存在します(カッコ内は中心駅)。

札幌市内(札幌駅)
仙台市内(仙台駅)
東京都区内(東京駅)
横浜市内(横浜駅)
名古屋市内(名古屋駅)
京都市内(京都駅)
大阪市内(大阪駅)
神戸市内(神戸駅)
広島市内(広島駅)
北九州市内(小倉駅)
福岡市内(博多駅)

以上11都市で設定されています。
これらの市内に入る駅と200kmを越える距離を移動する際に○○市内発、もしくは○○市内着という表示になります。
市内駅の具体的な範囲はWikiを参照してください。

*1:当時は品川に新幹線の駅がなかった